持続可能な循環のある暮らしを探して……

「虫干し」って何ですか?

【ながら加藤建築】畳と日本家屋の話

棟梁は、畳の専門家ではありませんが、「畳の虫干し」を中心にして、日本家屋や関連する文化について、お話します。先日、あるお客様から「なぜ、畳を虫干しするの?」というご質問をいただきました。

最近は、近所で見かけることが減ってきましたが、国民的人気アニメとも言われる『サザエさん』で、庭に畳を立てかけて干しているシーンを見たことがあるかもしれません。これが「虫干し」です。虫干しするのは、畳のダニやカビ、埃などの対策のためです。天気のいい日に、太陽の下で4~5時間干して、最後に、叩きます。

本床の畳のよいところ

実は、畳にはいくつかの種類があります。そのひとつに、「本床(ほんどこ)」と呼ばれるものがあります。本床は、6cmほどの厚みがあり、中には藁(わら)が使われています。本床で使われる「い草」と「藁」は、湿度を調整してくれるので、日本家屋を建てる際には、断然、本床がオススメです。ただし、本床は、手入れが必要になります。最近出ている、薄くて軽く、値段も安い畳は、段ボールの圧縮財でウレタンマットを挟んだものに、い草を敷いてあるだけだったり、い草の代わりにビニールを使ったりしています。こうした畳は、気軽に使えますが、人が歩く程度の摩擦ですり減ってしまうものもあるようです。い草の染め方にも違いがあるそうで、「青いほうが、高級感があるように見えるから」という理由で、青く染めると聞きます。

【ながら加藤建築】畳と日本家屋の話

畳はダニやカビの温床って、本当?

湿度を調整してくれるというメリットがある本床が避けられるようになった理由は、「ダニやカビの温床になる」という悪いイメージを持たれるようになったからです。しかし、ダニやカビが生えるのは、「建築方法が変わってきたこと」「年に2回ほどの虫干しをしなくなったこと」「掃除をする回数が減ってきたこと」などが原因です。

【ながら加藤建築】畳と日本家屋の話

昔は、畳の掃除といえば、お茶ガラを撒いておいて埃を吸わせておいてから、拭き掃除をしました。でも、忙しい現代では、なかなか難しいですよね。掃除機をこまめにかけるのも大変です。だから、ダニが発生しやすくなってしまうのです……。畳屋さんとしても、手入れが難しいのは想像がつくので、まずは廉価なものを勧めておいて、数年後には、一式すべてを取り替えてもらったほうがいいや、と思うのかもしれません。

高級品になった「い草」と「藁」

今日、い草の生産は、80%以上を中国に頼っていると言われています。自然のなかで育った、太さの違うい草をきちんと揃えるのは大変です。なんと、一畳10万円という最高級の畳もあるそうです。びっくりですね。

本床の畳は、基本的に手織りです。作るのにかなりの時間を要します。1枚作るのに、2日くらいかかるのだとか。また、かつては日本中に藁がありましたが、現在はそうではありません。藁は、稲の茎の部分を干したものです。お米を収穫するときに、昔は稲を手で刈り取って、「はざ掛け」と呼ばれる天日干しを行っていました。しかし、今日では、稲の収穫はコンバインなどの大型機械で一気に行います。「はざ掛け」を行うと、干している間に藁に溜まっている栄養素が米粒に行き渡るので、甘み、うまみ、粘りが増すと言われています。また、「はざ掛け」して天日干しした藁は、藁床、土壁、畑の畝にかける敷き藁、草鞋、しめ縄などたくさんの使い道がありました。稲を中心に、あらゆるものが生活の中で、循環していたのですね!

こんな風に、いい事尽くめの「はざ掛け」ですが、かなりの人手がいりますし、天候にも左右されてしまいます。そんな理由で、なかなかできなくなってきているのです。

「循環」を途切れさせないために……

最近は、藁の使い道である「土壁」を使った家が減りました。洋室が増えたことで、畳も減りました。どんどん藁を使う機会がなくなっていき、藁自体も減ってきてしまいました。残念な悪循環です……。

昔は、家も広く、庭先には、畳を干す場所が十分にありました。いまや、その場所もなくなってきています。核家族化も進み、一緒に暮らす人数が減ってきているので、虫干しをする時間を取ることも難しくなってきています。世の中がスピードアップして、「ゆっくり時間を掛けて、ていねいに手入れをして長持ちさせる」のが難しい時代になってきているのを感じます。家のことも、それ以外のことも、あらゆることに於いてです。こうして日本の文化が消えていくのは悲しいことだと思いますが、時代の流れなのかもしれません。

【ながら加藤建築】畳と日本家屋の話

最近は、少しずつではありますが、土壁や畳のよさが、見直されつつあると言われるようになってきました。ながら・加藤建築では、そうした流れがもっと進むよう、お手伝いしたいと思っています。現在の家にも、土壁や本床の畳を取り入れていきたい。そのように思います。